昨夕の遅くに,カイ帝国からの使者が王都についたらしい.
さすがにあまり眠れずに,日の出とともにマリは眼を覚ました.
情けないことに,居間のソファーで眠ることにすっかり慣れてしまっている.
まさか,皇族が出てくるとは思わなかった.
少し考えが甘かったのかもしれない.
隣の寝室では,少女が寝息を立ててまだ眠っていた.
気持ちよさそうな安らかな寝顔…….
よく考えれば,初めて見る.
少女はたいてい少年よりも先に起きる.
それに眠っていても,傍に人の気配を感じればすぐに起きだすのだ.
少しは慣れてくれたということなのだろうか?
少女の枕もとにしゃがみこみ,少年は少女の寝顔を見つめた.
……マリ君ならきっと立派な王様になるよ.
控えめに微笑む少女の笑顔.
その漆黒の瞳を開いて,一言,おはようと言って欲しい.
予想以上に早くに来た使者に対して,自分は少なからず動揺している.
しかし口をついて出た言葉は,
「アスカ,私のこと好きかい?」
面と向かっては聞けない,前にそれで倒れられたからだ.
あなたは,私の太陽!
地平から昇る太陽よりも輝く笑顔.
あの科白,どれだけ嬉しかったか分かるかい?
聞かなくても少女の気持ちは分かっている.
それでも……,
「アスカ,私のこと好きだろう?」
すると,驚いたことに返事が返ってきた.
「……うん,好き…….」
ふっと漆黒の瞳が開かれる.
「マリ君!?」
途端に少女は顔を真っ赤にして,ベッドから跳ね起きた.
少年はこらえきれずに,くすくすと笑い出す.
「アスカ,おはよう.」
慌て驚く様が愛しくて真っ赤に染まる顔がかわいくて,少年は少女の額に軽く口付けた.
いつかの少女の科白が思い出される.
元気,出た?
……あぁ,出たさ.
頬を赤く染めながら,少女は心配そうに聞いてきた.
「マリ君,今日は……,」
「あぁ,来たらしい.」
でも,大丈夫.
必ず追い払ってみせる.
少年は少女に向かって,微笑んで見せた.
「それじゃ,彼らに会いに行ってくるよ.」
すると少女は眩しそうに目を細めて微笑んだ.
「いってらっしゃい!」
その瞳もこの国も,大事なものはすべて守ってみせる.
欲張りといわれようとも,子供のわがままだと思われようとも構わない.
まだ幼い背中に少女の視線を感じながら,少年は部屋を出た…….