ぽかぽかぽかぽか,小春日和.
小春日和は春の暖かい日じゃなくて,冬の暖かい日のことなんだよ.
あそこで眠っているのは我が校期待の星,小林先輩ではないか.
日当たりのいい図書室,机に突っ伏しておねんねしている.
学年主席も大変だね,うちの高校初の現役K大学合格者になるかもと先生方も息巻いているし.
私は司書の先生に整理を命じられた本を持って,先輩の傍までやってきた.
机に広がった参考書やノート,先輩が図書室で勉強をするのは図書委員である私のせい…….
そう,何をとち狂ったのか,この小林先輩は昨日私に告白をしてきたのだ.
「好きだって,私のことがですか?」
南校舎と西校舎の間,渡り廊下でのできごとだ.
「それ以外の何に聞こえた?」
神経質に眼鏡を上げて,小林先輩は言った.
「いや,でも,だって……,」
私はもじもじと俯いた,夕日に照らされて私と先輩の影が横に長く伸びる.
すると先輩はもう用は無いとばかりに立ち去ってゆくではないか!
「ま,待って!」
私は思わず引き止めてしまった.
「何か用か?」
冷たい視線で,本当にあなたは私のことが好きなのですか,振り返る.
「わ,私の返事は聞かなくていいのですか?」
「興味ない.」
そっけなく先輩は答えた.
「卒業までに君に告白をするという目標は果たしたし,これで明日からは受験に専念できる.」
本当にせいせいしたように先輩は笑った.
「君のせいで昨日は眠れなかった.」
へ?
私のことが好きで眠れなかったの?
「もう君の姿を追いかけて図書室で勉強する必要も無いし.」
なになになに!?
なんかすごいことを言われているような気がするのだけど,なぜだかちっとも感動できないよ!
「それじゃ,呼び止めて済まなかったね.」
そして先輩は何事も無かったかのように去って行った…….
あのぉ,先輩,私の気持ちとか,付き合ってほしいとか……,本気で何も無しですか?
頭のいい人って,やっぱりどこかおかしい…….
人の少ない放課後の図書室.
私は気持ちよさそうに眠る小林先輩の髪をそっと撫でた.
昨日の話ではもう図書室には来ない感じだったのに,小林先輩は今,ここにいる.
その理由は……,
するとびくっと体をふるわせて,小林先輩は唐突に起き上がった.
「な,なんだ!?」
真っ赤な顔をして,しかも眠っていたせいで眼鏡が微妙にずれている.
あのぉ,先輩,昨日の告白では普通の顔だったのに,どうしてこうゆうときに限ってそんな顔なんですか…….
「なぜだ……?」
赤くなってしまった顔を隠すように下を向いて,先輩はため息を吐いた.
「今日も眠れなかった…….」
うぅ……,その理由,まさか私が教えないといけないのですか……?
「それはですね,先輩,」
私は先輩の顔から眼鏡をさっと奪い取った.
「私と付き合ってみれば,分かりますよ.」
思っていたよりも澄んだ瞳が驚いて私の顔を見つめる.
まったくもぉ,恋愛指南役も楽じゃない…….
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