「心の瞳」の舞台裏.
珍しい紺色の髪をした少年は,隣を歩く少女に話しかけた.
「すまない,ミドリ.」
すると少女は少年の紫紺の瞳をまっすぐに見つめてきた.
「本編では迷惑ばかりをかけて…….」
少女はにっこりと微笑んだ.
「いいよ,ガロード.」
どんなに苦労しても,たとえアンハッピーエンドに終わるにしても,
「ちゃんと覚悟は決めている,」
自分自身で決めたから,この少年のそばにいると…….
そうして,少年と少女は再び出会う.
もう離れないという決意を胸に秘めて…….
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異世界純愛ファンタジー「心の瞳」
異世界へ連れ去られていた少女が帰ってきた,そんなところから物語りは始まります.
「竜を探して」のお昼時
森の中,一人もくもくと昼食の準備をする男の姿をサラは見つめた.
太い木の幹に馬を2頭繋いでやってから,彼女は男の傍に近寄る.
「サラ,邪魔だ.」
傍までやってきた彼女を男は邪険に扱った.
「セイ,なんか手伝えることはない?」
それでもめげずにサラは男に訊ねた.
しかし男は黙って腰を降ろし,今度は火をおこし始めた.
サラはそっとため息を押し隠して男の隣に腰掛けた.
「あのね,セイ.私も実は火をおこせるのよ.」
おもむろにサラは男に向かって楽しげに話し掛けた.
「キャンプでね,お母さんがお父さんよりもサラの方が上手だって,」
故郷の両親のことを思い出してしまい,彼女はふと黙ってしまった.
しかし気を取り直したように再びしゃべりだす.
「こうゆうのでご飯を作るとなると,やっぱりカレーよねぇ.」
薪に火が点く.
セイは立ち上がろうとした.
するといきなり背中に重みが加わる.
彼の首筋にサラの柔らかな長い髪がかかった.
「おい,お前,」
彼の首に腕をまわして,背中に乗っかっているサラに向かってセイは言った.
「どけ.」
振り向くと,彼女はいきなり彼に唇を合わせてきた.
それに自然に応えてしまう自身を自覚しながら,セイはサラと口付けを交わした.
途端に感じる脱力感.
彼女が彼の魔力を奪い去ったのだ.
「魔力が欲しいなら先に言ってからやれ.」
セイはそっけなくサラにそう告げた.
すると彼女は少し悔しそうに俯く.
「別にそうゆうわけじゃ……,」
その身のうちにレニベス王国の神獣を住ませる少女.
異世界チキュウからやって来た少女.
セイはため息を吐いた.
「下手なくせにいっぱい人の魔力を取るな.」
すると少女は真っ赤な顔をして彼の方を見返してきた…….
「太陽は君のもの!」プロローグの裏話
床の大理石が白色に輝きだす.
「じゃぁ,迎えにいってくるよ.」
その光の中心で,銀の髪,青の瞳の少年が嬉しそうに微笑む.
「殿下,たとえ振られても王家の石だけは返してもらってくださいね.」
それを受けて,亜麻色の髪の青年がしゃべる.
どんどんと明度を増す光の中で,銀の髪の少年はショックを受けたようにみえた.
「大丈夫だってば,殿下.がんばれ!」
すると今度は,亜麻色の髪の少年が激励の言葉を送る.
まばゆい光に包まれて,殿下と呼ばれた少年は軽く手を振った.
「行ってきます.」
そうして,少年の姿は光の中に消えた…….
後に残された二人の青年と少年は,思わず同時にため息をついてしまった.
「殿下,浮かれすぎ…….」
弟が言うと,兄は苦笑して答えた.
「まぁ,仕方なかろう…….なんせ10年ぶりの再会なのだから.」
彼らの主君は,異世界チキュウへ初恋の少女を迎えに行ったのだ.
父親である王が病に倒れてからは毎日暗い顔をしていたのだが,今日は久しぶりに笑顔を見せている.
明るい日差しによく似た笑顔を…….
「いい娘だといいけどなぁ,アスカ.」
サイラはぼつりとつぶやいた.
名前はアスカ,長い黒い髪に黒い両目.
彼の主君曰く,とにかくかわいい,愛らしい.
そして,
かわいそうだから,守ってあげたい…….
「どんな娘を連れてくると思う? 兄ちゃん.」
正直,主君の話し振りからだと,どんな少女なのか皆目検討がつかない.
「さぁ…….」
兄はそっけなく弟に答えた.
「殿下,今ごろ会っているのかなぁ…….」
サイラはつぶやいた.
「でもあの殿下のはしゃぎようを考えると,無理やりにでも連れ帰ってきそうな気がする…….」
「まさか…….」
コウリは笑いかけたが,ふと顔を凍りつかせた.
恋愛に関してはただひたすら一途で,どこか頑固なところがある彼らの忠誠の対象である少年.
「……そのときは殿下を説得して,さっさとアスカを帰して貰おう.」
思わず,彼らは神妙に頷きあった…….
このツティオ公国の王となるべき少年.
その少年が想いを寄せる少女はただ一人だけ…….
約束 −太陽は君のもの!−
「ずっと待ってる…….」
涙に濡れた漆黒の瞳が少年に告げた.
「10年後,絶対迎えに来てね.」
夕日に照らされて,少女の顔が赤く染まる.
「必ず行くから,」
名残惜しそうに少年は少女の手を離した.
この手を離したら,もう10年間はこの少女とは逢えない.
それでも離さなくてはならないのだ,自分たちはまだ子供だから.
しかし10年後は,
「アスカを僕の世界へ迎えに……,」
君を必ず連れてゆこう.
幼いながらに,初めて人を守りたいと思った.
これがきっと初めての恋だと思うから…….
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10年ぶりに再会した初恋の少年に連れられてやってきた異世界で,少女はいきなり結婚を申し込まれた.
異世界純愛ファンタジー,小さな新興国ツティオ公国のお話です.
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