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  近くて遠い国  

近くて遠い 未来の話
その国で 人々は
少し走れば息は切れ 何もないのにつまづいて
話しただけで心は揺れて 怒鳴ったり泣いてたり
お金を払い 何でも買って 何でも捨てた
一人の医師は あるとき言った
病気と診断される 治療をはじめよう
人々は言い返す
みんな病気 問題はない
みんなと同じ 大丈夫だ
道を整え車に乗ろう 人と触れない窓を作ろう
たった一人で住む家を たった一人の生活を

教師は あるとき言った
国民は 弱く愚かになるだろう
政治家は言い返す
そうでなければ 困ってしまう
幼子は あるとき言った
自分の足で歩きたい 窓を使わず話したい
大人らは言い返す
車や窓を売らないと 困ってしまう

そのうちに一人の家は傾いて 車は壊れ 窓は割れた
でも人々は 気づかない振り 分からない振り
初めから 穴だらけだと知っていた
一人の音楽家は あるとき歌う
この国を守りたい
人々は その歌に熱狂した
その歌を聴き ともに歌った
歌は大いに売れて 売れるからこそ 買われていった
あるときに 私は歌を支持すると 誰よりも声高く叫ぶ人
国民は その人についていく
考えることはない 何もかも任せろと 誘われたから
さぁ 国を守ろう
私だけ愛されて 私だけ得をして 私だけ許される国!
その国は走り続ける
先にあるのは 深い断崖
落ちていく国の名を 君たちは知るだろう
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