今,すべてが分かったように思えた.
弟だとか恋人だとかはどうでもいい,ただこれだけが真実.
「一樹が好きだ,誰よりも.」
死んだ父上よりも,今,生きているこのぬくもりが欲しい.
すると一樹がぎゅっと抱きしめてくれた.
「香月……,」
一樹の呼ぶ名が,私の存在の証だ.
こんなにも満ち足りた気持ちを私は知らない.
母上がこの家で見せる微笑,今まで私が見たことがなかった微笑.
あぁ,そうか.そうゆうことなのか…….
きつく抱きしめられて足が宙に浮く.
すると一樹はとことこと歩き出し,私をどこかへ連れてゆこうと,
「ちょ,ちょっと待て,一樹!」
ぼすんとベッドに投げ出されて,私は慌てた.
「い,いきなり過ぎないか!? やっと理論が確立したばかりなのに,もう実践をするのか!?」
問答無用で,一樹の大きな体が覆いかぶさってくる.
「うわぁぁ!? や,やめてくれ!」
く,首がくすぐったい,何をやっているのだ,こやつは!?
ドンドンドンドン!
ドアを乱暴に叩く音がする.
「一樹! 誤解だ!」
おぉ,我が友人加藤の声ではないか!
「勝手に誤解して,香月ちゃんを押し倒しているんじゃねぇ!」
「お,押し倒していませんよ!?」
一樹は真っ赤になって反論する.
しかしこの状況は押し倒している以外の何者でもないぞ,一樹!
「さっさとドアを開けろ! 静江さんがものすごい顔をして俺の隣にいるぞ!」
瞬間,まるでアニメのように一樹の顔が青くなっていった.
う〜ん,おもしろい…….
「一樹……,」
呼びかけても返事はない.
完全に一樹は凝り固まってしまったようだ.
「観念して,母上のお説教を聞きに行こう.」
私は一樹の下から抜け出して,肩をぽんぽんと叩いた.
「香月さん……,」
情けなさそうな顔で一樹は顔を上げる.
「元気がないぞ! 一樹!」
今度は恋人となるべく,
「ともに最大限の努力をしようではないか!」
手を差し出すと,がっくりとしたままで一樹は私の手を取った…….