曖昧な僕ら08


今,すべてが分かったように思えた.
弟だとか恋人だとかはどうでもいい,ただこれだけが真実.

「一樹が好きだ,誰よりも.」
死んだ父上よりも,今,生きているこのぬくもりが欲しい.
すると一樹がぎゅっと抱きしめてくれた.
「香月……,」
一樹の呼ぶ名が,私の存在の証だ.

こんなにも満ち足りた気持ちを私は知らない.
母上がこの家で見せる微笑,今まで私が見たことがなかった微笑.
あぁ,そうか.そうゆうことなのか…….

きつく抱きしめられて足が宙に浮く.
すると一樹はとことこと歩き出し,私をどこかへ連れてゆこうと,
「ちょ,ちょっと待て,一樹!」
ぼすんとベッドに投げ出されて,私は慌てた.
「い,いきなり過ぎないか!? やっと理論が確立したばかりなのに,もう実践をするのか!?」
問答無用で,一樹の大きな体が覆いかぶさってくる.

「うわぁぁ!? や,やめてくれ!」
く,首がくすぐったい,何をやっているのだ,こやつは!?
ドンドンドンドン!
ドアを乱暴に叩く音がする.
「一樹! 誤解だ!」
おぉ,我が友人加藤の声ではないか!

「勝手に誤解して,香月ちゃんを押し倒しているんじゃねぇ!」
「お,押し倒していませんよ!?」
一樹は真っ赤になって反論する.
しかしこの状況は押し倒している以外の何者でもないぞ,一樹!

「さっさとドアを開けろ! 静江さんがものすごい顔をして俺の隣にいるぞ!」
瞬間,まるでアニメのように一樹の顔が青くなっていった.
う〜ん,おもしろい…….

「一樹……,」
呼びかけても返事はない.
完全に一樹は凝り固まってしまったようだ.
「観念して,母上のお説教を聞きに行こう.」
私は一樹の下から抜け出して,肩をぽんぽんと叩いた.
「香月さん……,」
情けなさそうな顔で一樹は顔を上げる.

「元気がないぞ! 一樹!」
今度は恋人となるべく,
「ともに最大限の努力をしようではないか!」
手を差し出すと,がっくりとしたままで一樹は私の手を取った…….

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